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【六義園自然観察……016】
極私的・夏休み親子六義園自然観察教室……9[クコの実]
●●●今日の寄り道→【音のない夏】

母親が飲んでいる薬の種類がだらしなく増えている気がしたので、薬の解説書を片手に整理してみると、起こり得る副作用として便秘が挙げられていることが驚くほど多い。薬というのはそもそも不自然なものであり、不自然なものというのは排便を阻害するものなのかもしれない。
母を少しでも歩かせることで、腸の活動を促進することも目的として始めた極私的・夏休み親子六義園自然観察教室であり、本気で自然観察を目的にしたものではないので、このところ学術的意味合いが希薄になり(もともと希薄だったが)、しかも母の質問が高度になりすぎて、浅学の息子では手に負えなくなってきた。
そんなわけで六義園内に入っても、水筒に入れて持参した温かいお茶を飲みながらあんパンやどら焼きを食べたり、売店で買った餌をコイやカメにやって遊ぶという、非常に年寄りじみた散歩になってきた。
コイやカメに餌をやっているとハトやスズメがやってきて、自分たちも貰えないかとこちらを見つめている仕草が切なくて、母は湿気てしまった乾燥木の実をポケットに忍ばせてきて彼らに与えている。その際、ハトやスズメが赤いクコの実だけを選別して食べないのが不思議だという。
クコには、ベタイン(赤色色素)、βシトステロール、クコタンニン、グルコサイド、ゼアキサンチン、 ルチン、ビタミンB1、B2、C、ニコチン酸、リノール酸、タンパク質、カルシウム、リン、鉄などが含まれるそうで、とくに実にはベタインとゼアキサンチンが多く含まれて血行をよくするという。クコの実は疲労回復や眼病予防の効能があるというのだが、それは人間にとっての御利益であって、ハトやスズメが嫌う成分が含まれているのかしら、とも思ったりもしたのだが、母は単に赤い色が嫌いなのではないかという。

onMouseOver
風人社発行、摂食・排泄ケア総合情報誌『tabedas』(タベダス)2004年8月号を読んでいたら、「よく噛めない人でも食べられるイカを見つけました」と題して株式会社ふくなおが発売している『やわらかいか』(業務用)という商品が紹介されていた。すり身をベースにしたイカもどきなのだが、咀嚼や燕下が困難な人にも食べられる逸品らしい。とくに天ぷらにするとかなり美味しいという。
そういえば清水帰省時、行きつけの飲み屋でお通しに『いかそうめん』のようなものが出てきて、食べてみたら「おやっ?」と思い、母にすすめてみた。母は入れ歯の具合が悪くて、堅い物や粒状のもの、そして噛み切れないものを苦手としており、イカやタコなどは目では美味しそうに思っても口では楽しめない気の毒な状態になっていたのだが、これなら食べられると大喜びである。
「お母さん、これ何だと思う?」
「いかそうめんだよ」
母はバカな質問をする息子だと言いたげに怪訝そうな顔をして答えていたが、なるほどなぁと思う。
イカというのは加熱調理すればイカ独特の風味があって美味しいが、新鮮な生イカを刺身にした場合、それ程“イカくさい”わけではなくて、それでも独特の臭いがする場合は単に“くさい”ので注意が必要である。おろし生姜とアサツキを添えたりすると刺身こんにゃくを利用したようなモドキ食品でも“いかそうめん”のような喉越しと舌触りを楽しめるわけで、年寄りに本物と思わせるくらいの効果はあるようだ。
「お母さん、ハトやスズメにとってクコの実は噛んだり呑み込んだりするのに不都合な食品なのかもしれないよ!」
というと母はバカな類推をする息子だと言いたげに怪訝そうな顔をしているので、ハトやスズメが食べ残した赤いクコの実を拾い集めて来て手のひらにのせ、爪を立てて千切ってみたが、硬くはないけれど粘度があって千切りにくく、べたついたりもするのでかなり苦労した。
ハトやスズメは赤いクコの実に見向きもしないわけではなくて、ツンッ!とくちばしで一撃を加えて放り投げてしまうのだ。おそらくその一撃で、餌が砕けるか、飲み込めるかを判断して放棄しているのである。
「お母さん、見ててね」
そう言って手のひらで千切った沢山のクコの実の砕片を投げたらハトとスズメが争って丸飲みしていた。母は、
「なぁるほど!鳥も大変だ……」
と感心しながら溜息をつき、思うようにならない自分の入れ歯のことを思い出したらしい。

摂食・排泄ケア総合情報誌『tabedas』(タベダス)は隔月刊。
問い合わせは風人社TEL.03−5800−5949まで。表紙デザイン:石原雅彦
写真上:ハトやスズメにとっては干しぶどうも噛んだり呑み込んだりするのに不都合な食品なのかもしれないが、そちらは母が大好物なので自分で食べてしまう。
[Data:KONIKA MINOLTA DiMAGE Xg]
写真下:クコの実。これはネットリモチモチしたドライフルーツのようなものである。
[Data:RICOH Caplio G4wide]
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【音のない夏】
今年は蝉の鳴き声をひときわ大きく感じる。
昨年の日記を読むと、母の愛犬イビの失明どころではなく、母の体調がどんどん悪化して居り、今頃から9月にかけて毎週末帰省することになる。

母の検査に付き添い、医師の告知を受けるために通った県立病院の想い出にも不思議と蝉の声がない。東京の自宅に電話がかかって来て、二人だけでまず会いたいと医師に言われ、病院へ急いだ日も暑かったはずなのに汗の記憶もない。
「お母さん、去年の今頃は毎週のように清水に帰って病院通いをしたけれど、蝉の声の記憶がないね」
「そうそう、去年は冷夏だったからねぇ」
母の方が冷静に去年の夏を記憶している。
2004年 8月
17日 火曜日 10:55:23 AM
[Data:SONY Cyber-shot W1]
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