電脳六義園通信所管理人 石原雅彦の日日抄
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三好春樹主催・生活とリハビリ研究所サイトの管理日誌です。
【今月の栞】 かえりも月夜でありました。 しかし、かえりの月夜は、なんとなくつまらないものです。子供たちは、だまって――ちょうど一人一人が、じぶんのこころの中をのぞいてでもいるように、だまって歩いていました。 切通し坂の上に来たとき、一人の子が、もう一人の子の耳に口を寄せて何かささやきました。するとささやかれた子は別の子のそばにいって何かささやきました。その子はまた別の子にささやきました。――こうして、文六ちゃんのほか、子供たちは何か一つのことを、耳から耳へいいつたえました。 それはこういうことだったのです。「下駄屋さんの小母さんは文六ちゃんの下駄に、ほんとうにマッチをすっておまじないをしやしんだった。まねごとをしただけだった」 それから子供たちはまたひっそりして歩いてゆきました。ひっそりしているとき子供たちは考えておりました。 ――狐につかれるというのはどんなことかしらん。文六ちゃんの中に狐がはいることだろうか。文六ちゃんの姿や形はそのままでいて、心は狐になってしまうことだろうか。そうすると、いまもう、文六ちゃんは狐につかれているかもしれないわけだ。文六ちゃんは黙っているからわからないが、心の中はもう狐になってしまっているかもしれないわけだ。 おなじ月夜で、おなじ野中の道では、誰でもおなじようなことを考えるものです。そこでみんなの足はしぜんにはやくなりました。 ぐるりを低い桃の木でとりまかれた池のそばへ、道が来たときでした。子供たちの中で誰かが、 「コン」 と小さい咳をしました。
新美南吉『狐』より
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