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2006年02月11日 土曜日
■もう一本のキャップレス
当サイトの「ひとこと伝言板」でパイロットのノック式万年筆『キャップレス』が今でも販売されていると聞いて驚き、『キャップレス』をキーワードにしてインターネット検索したら、懐かしいキャップを取らずに使える万年筆のページがたくさんあった。
今思えば不思議な話なのだけれど、東京の小学校を卒業して郷里静岡県清水に戻って中学校に入学することになったら、誰言うともなく、
「中学校では万年筆の携帯が許可されるから万年筆を買おう」
という話しがしきりに聞こえてきて、僕は母にねだって清水銀座万年筆専門店『愛林堂』で万年筆を買って貰い、入学したら本当にほとんどの生徒が万年筆を持っていた。中学入学で万年筆を買い、高校入学で腕時計を買うというのが一種の風習だったのだろう。
中学に入学したのが1967(昭和42)年であり、その当時流行っていたのが、万年筆の軸が短くてキャップを外してひっくり返し、お尻に刺すといっちょまえの長さになるというやつだった。
キャップを利用したうまい方法だと感心したけれど、もっと感心したのがキャップを外さないノック式の万年筆があることであり、僕はそのメカニズムにしびれて欲しくて欲しくてたまらなかった。
母に万年筆を買うならパイロット萬年筆の『キャップレス』が欲しいとねだったのだが、母は
「そういうヘンな物を欲しがるんじゃない」
と言い、
「東京のアパートで隣に住んでいた菊池さんが勤めていたから」
というヘンな理由で僕にプラチナ萬年筆を買い与えたのだった。
クラスに『キャップレス』を持っていて自慢していた友人がおり、僕はカチッとノックすると先端のフタが開いてペン先が出てきて、書き終えて再びノックするとペン先が引っ込んでフタが閉まる秀逸なアイデアを、見るたびに口をあんぐり開けて眺めていた物だった。
高校生になったある日、母が営む飲み屋の客が
「われにくれる」(お前にやる)と言い、使っている萬年筆を貰ったのがパイロット『キャップレス』だった。
その『キャップレス』は僕が中学生時代に見た物より、曲線を多用した大人っぽく高級感のあるデザインで、それはそれで嬉しかったけれど、中学時代に見たシンプルで直線的で現代的(と思えた)な安っぽい『キャップレス』(記憶を頼りに描いたポンチ絵参照)の方がいいな、と思ったものだった。
復刻されて現在も販売されている『キャップレス』のもっと原初的なデザインのやつを復刻してくれたら欲しいのに、と思い、どんなデザインだったか確かめようとしたら、インターネットでヒットするのは現在売られている曲線型ばかりで直線型の情報が全く見つからないのが不思議だ。


【写真上】東京都中央区京橋二丁目。『PEN STATION』1階のカフェ。
撮影日: 2006.02.10 0:30:10 PM
Panasonic
DMC-FX8
【写真下】『PEN STATION』2階のミュージアムに続く階段。世界各国に工場が開設された年表になっているらしい。
撮影日: 2006.02.10 0:38:32 PM
SONY
DSC-F88
東京都中央区京橋二丁目。
仕事の打ち合わせで銀座一丁目にある出版社に行くため中央通りを歩いていたら『明治屋』の斜め前あたりに『PEN STATION』という筆記具の博物館があるのを偶然見つけた。
「ペンとステーショナリーのパイロットが蒐集した国内外の貴重な資料を展示する国内随一の筆記具ミュージアムです」
というのを謳い文句にした株式会社パイロットコーポレーションが運営するミュージアムである。1階がカフェ、2階がミュージアムと修理受付になっており、こぢんまりしているがなかなか美しく楽しい展示がされている。


【写真上】『PEN STATION』2階ミュージアム。
撮影日: 2006.02.10 0:29:36 PM
Panasonic
DMC-FX8
【写真下】『PEN STATION』2階ミュージアム。
撮影日: 2006.02.10 0:27:37 PM
Panasonic
DMC-FX8
そうだ、ここでパイロット萬年筆の歩みを辿れば懐かしい直線型『キャップレス』に再会できるに違いないと思い、年代順に展示を眺めていったら1967(昭和42)年を通過し、同じく憧れだったニューヨーク近代美術館永久展示アウロラ『アスティル』が発売された1970(昭和45)年を通過し、1971(昭和46)年に
「万年筆「キャップレス」を発売」
と書かれて僕も持っていた曲線型が展示されているだけだった。

【写真】『PEN STATION』2階ミュージアム。1971(昭和46)年、万年筆の歴史に初めて『キャップレス』が登場しているのを見て軽い目眩を覚える。
撮影日: 2006.02.10 0:28:47 PM
Panasonic
DMC-FX8
ミュージアムの展示から消滅し、インターネットの海でも見つけることのできない、直線型の『キャップレス』は何処へ行ったのだろう。
「幻の」とつきそうな直線型『キャップレス』が公式年表より4年も前に存在したことが幻でないことは、清水市立第二中学の同級生に聞くより他にないのだけれど、彼の名が宅間君だったか小澤君だったか、はたまた久保田君だったかは記憶の彼方の幻となり、きっと僕の世代が消えたら直線型『キャップレス』は万年筆の歴史からも永遠に消えていくのだろう……って、大げさに言うほど大した問題じゃないけど。
というか、これだけ世界から手がかりが消えてしまうと、本当に静岡県清水市立第二中学校木造旧校舎の机の上で幻を見ていたような気がしてくるから“情報”というのは不思議だ。

▼2006年2月12日追記。
なんと友人が1963年に発売された最初の形の『キャップレス』を所有されているとのことで写真を撮って送って下さった。
約40年近く歳月を経ての再会なのに、記憶を辿って描いたパイロット『キャップレス』にとても近いのに驚く。それもそのはずで、円柱の棒を良く切れるナイフでスパッと切って作ったような、とてもシンプルなデザインなのである。


【写真上】旧タイプの『キャップレス』。上が直線型、下が曲線型。
【写真下】旧タイプの『キャップレス』を分解したところ。
キャップの取り外しをしなくてよい分、万年筆をカジュアルに使う、というコンセプトからすれば、僕は写真「上」の直線型『キャップレス』を現代の技術でさらにブラッシュアップし、シンプルでいながら材質にこだわった新製品としてリバイバルさせたらよいのに、と懐かしい写真を見てしみじみと思う。ハンドルネーム「鳥さん」に感謝。

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