三つどもえ

 ひき戸を開けると目の前に、けわしい顔をした外国人風の女が立っていた。

「お前はアッチ、コッチやるから注文ワスレンダヨー!マッタクー 、たいした仕事もしないくせにヨー!」
外国人風の女が七十すぎの老婆を口汚くののしっていた。老婆はうつむき、ジッとたえていた。

ひどい店にきたものだ。不愉快になり店を出ようとすると、

「おだやかに おだやかににね まだはじまったばっかりだヨー」
 若い男の声が奥の調理場から聞こえてきた。コの字型のほそ長いカウンターの廻りには四〜五人ほどの老人がひっそりと座っていた。

メニューを見ると三十品ほどあり、値段も百五十円から五百円くらいまで、横の客が食べていたマグロ刺し(500円)は悪くない感じがしたので、一杯だけ飲もうと、マグロ刺しとオニオンスライス(百五十円)を注文。

嵐(外国人風)が奥へ去り、店内はトゲトゲした空気が去り、やわらかい時間が訪れた。嵐(外国人風)さえ来なければこの店は悪くないかもしれない。ひっそりと飲んでいた老人たちも、子雀のように小声をだしはじめ、私も酎ハイを飲み気持ちがスーと落ちついた。焼酎もキッコー宮で私の好きな酒だったこともあり、もう少し、と三杯目を注文する頃にはカウンターの席も埋まって、酒場独特の雰囲気が漂いはじめてイイ感じになってきた。しかしこの店は老人が多い、それも一人客ばっかりだ。

すこし酔いがまわりウットリしていると、調理場で声がする。料理のことでモメているらしい。またあの老婆が間違えたのだろうか?.......こんどは店主らしい男(七十代)と、さきほどの若い男らしい。料理の手順の事での言い合い、だんだん声が荒くなってきて、いまにも掴みかからんばかりである。

「ヤメナヨー!」

あの外国人風が大声で叫んだ。言い争いはおさまった、.......と思ったら「¥〜ー=&%$#」店主が収まらないらしい。「&%$&&#$$!」と若い男がきりかえした、「バカヤロー!$¥&#$¥%*+$$!」「コノー糞親父がー、%#!&W&&%」と外国人風が一段と大声で大興奮。収拾がつかなくなってしまった。

調理場で怒られたり、言い合う姿は何度か目にしたが、こんなに大声で客を無視した、言い争いは初めてで、外国人風のボキャブラリーの凄さがいっそう荒々しくみせている。しばらく言い争っていた外国人風が

「イイヨ、イイヨ、店ナンカ閉メテシマウカラナ!」

と店の電気を消してしまった。

暗い店内で私は唖然。

 お客のことなど考えてない三つ巴戦はしばらく続いた。 
 ほかの客は、と見回すと、老人たちは静かにひっそりと酒を口に運んでいた。さすが年長者と思ったが、ただ元を取りたいだけのようにも見えた。私もそばに居た老婆に「酎ハイとシロたれ三本」。店内が暗いせいもあり落ち着いて観ると、三つ巴戦が演劇を観ているような感覚になった。
 
 二十分ほどの演劇は馴染みの客の登場で閉幕となった。