酒だけの店

この頃、素人がやっている飲み屋が多い。酒の肴なんて家庭料理そのものだ。家庭料理が悪いと言っている訳ではない。マズイ、下手な料理がいやなのだ。

そんなマズイ物を喰うくらいなら酒だけを出してほしい。

と思うのは私だけだろうか?。酒だけ、そんな店があったんです。



にぎやかな本通りからハズレ、道幅2mほどの露路に割れた古いスタンド式のカンバンがたよりなげに灯っていた。しかしそのカンバンの回りはブロック塀と民家の壁で、飲み屋らしき店は見当たらない。その露路を往復したが店はなく、しかたなく帰ろうとするとカンバンの脇にひと一人がやっと通れるくらいの路?が奥に向かって伸びている。街灯もなくわからなかったのだ。民家につづく路だろうか?、


15m位先にほのかに灯りがついているようだ。足元が暗く、おぼつかない足どりで店?の前に行くと『○○亭』のカンバンが雨に滲んで灯っていた。
『これは民家だ。茶の間で飲み屋をやっているのか?』

ドアは開かれていた。なかを覗くと初老の男が厳つい顔でジロリと私をみた。
『やってますか?』
と聞くと、
『アァーやってるよ』
ボソッと低い声で答えた。


店内は6畳くらいでカウンターと水回り、部屋のまん中に四角いテーブルを4〜5脚のイスが取り囲んでいる。
『ビール、それとサバの塩焼きを』
私は40種類ほどあるメニューから注文した。ビールを持ってきた男は
『お客さん、初めてだね。此処は喰いものはないんだよ』
絶句した。
『こんなにメニューがはってあるじゃない!』
私はすこし強い口調で言った。男は悪びれもせず、
『アレはボロかくしなんで』
この言葉で私の気持ちはスーとなごんだ。
『悪い奴じゃなさそうだ』
男は柿の種の小袋を出して私の向いに座った。


私はビールを一口飲み、落ち着いて店内を見回すと、壁は安っぽいプリントのビニールシートで、ポスターが2枚。どうも自分で改装したらしい。ふしぎなことにトイレ脇の小窓にはガラスが入っていない。小雨が降り込んで床を濡らし、外燈に照らされた木々の葉が風雨に揺れている。

向いに座った男は何も話さずタバコを吸っている。こちらを気にしてるようだが、私もその場しのぎの話をする気もなく、
お互いため息のようなタバコの煙りがホー、ホーとたちのぼるだけだった。

ビールが終わり、チューハイを注文した。

男の口からウッという音がもれ、あわただしく表へ飛び出していった。しばらくして男は500ミリの炭酸を1本もち帰ってきた。近くのスーパーへ買いに行ったらしい。
『ハイ』
チューハイを出し、また私の前に座った。重い時間がすぎた。
『雨はどうなるかね?』
『台風が上陸するそうですから強くなるんじゃないですか?』

はじめての会話?だった。

気がつくと2時間ほどの時間が過ぎていた

『勘定』
と言うと、
『今度くるときはツマミを持ってらっしやい』
男は言った。