情 景
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私は静岡の清水に行くために、各駅停車の東海道線に乗っていた。
車内は、まばらで夕方の海が涼しい風を送っていた。
由比の港あたりだったと思う。小柄な3人の老人が乗車してきた。
私の前にすわった80歳くらいの老人たちは、
礼服姿で日焼けした顔に白いワイシャツがよく似合ってた。
3人は無言で、車窓から見える海を見るでもなく
焦点がさだまらぬまま中空を見ていた。
トンネルを抜けた時、私は気づいた。
泣いているのだ。
3人の老人たちは泣いているのだ。
夕日に照らされた彼らは、泣くともなく
シットリと涙で濡れた目で中空をみていた。
(彼らに泣いている意識はないだろう)
私にも経験がある。もう10年も前だろうか?
『母が倒れた』との知らせを受け母の側に駆けつけ、
終日母の顔を覗きこみ、意識の戻らぬ母を兄弟に任せ、
仕事に帰る時から何故か眼に見える風景が眩しく、
写真でいう露出オーバーな感じだったのを覚えている。
7日後に母は他界したのだが、葬式の打ち合わせの時、
姉に『お前、目が真っ赤だよ。泣いてるの?』と言われ、
自分では気付かなかったが、
この一週間、妙に眩しかったことを思った。
きっと泣いていたのだろう。
この老人たちの放つ雰囲気、切ないが美しい場面だ。


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