タカリちゃん

『あの女には気をつけなよ!』
           となりの男は小さな声で言った。


町にいろいろ飲み屋は数多くあるが、呼ぶ店、ソソル店はそう多くはない。たいがいは店構えで私はきめる。立派すぎる店構えや、もったいぶった民芸調などが多いが飲んで気持ちよく店を出た事が少ない。客も酒をうまそうに飲んでいる人が少ないと思う。

このKは使い古した手拭いのような寂びた暖簾が私を呼んでいると思えた。

女がトイレから帰ってきた。
この女の何に気を付ければよいのか?。
美人局?それはない!女の歳は60ちかいだろう。酒乱?それはおおいにありだな。考えてみたけれど他に思い浮かばなかった。

初め女は、カウンターの端にすわっていたのだが、
『となり、よろしいですか?』とビールびんを持って私の横へ移ってきた。
『あなた、この店よくいらっしゃるの?』
『職業は?』
『何処から?』

など、そんなに興味がありそうには見えないが聞いてくる。私がビールを注文すると、『よかったらビールがくるまで』と自分のビールを私のグラスに注ぐのである。

妙に、気安いのだ。                  

私がしめサバを注文すると女は
『アァー ソレおいしそう』
と目いっぱいのコビを私にむける。
何ものなのだ この女?
いつもならば一人で飲みたいのでと断るのだが、私のいつもの
虫がゴソゴソと動き出した。

女はやせていて、スッピンだがくずれた感じはない。近所のオバサン風、ひとり暮らしとみた。
ビール飲みますか?と勧めると『アァーうれしい、私ビール大好きなの』とうまそうにグラスを空けた。しばらく、つまらない話をしていると『貴方てんぷらお食べにならない? 私には量が多すぎて……』と、また又気安く聞く。何だか変だなと思いつつ注文。それからマグロの刺身、揚げだし豆腐にモズクと、なぜか私が注文。アァ〜おいしい〜とビール三本だ。しかしうまそうに食べ飲む、変だぞ〜この女。

客に酒、食べ物を勧め、あとでバックマージンを店から受け取る、
隠れホステス?
しかし店の主人夫婦は実直そうでそんなことをするとは思えない。

それでないとすれば…… 
『タカリちゃん』
そうか、男が『気をつけろ』と言ったのはこのことか!

私はあまり腹が立たなかった。それよりか、
この女がどれくらい酒を飲み、食べられるのか試してやろう
『マイリマシタ カンベンシテ』
と言わせてやろう、というサディスティックな気持ちが沸き上がってきた。

しかし、相手は私の目論みを察したのか、お兄さんアリガト、おいしかったわ。とビール一本を勘定して店を出ていった。すばやかった。
若くもなく、色気もないこのタカリちゃん。今夜の収穫はどうだったのかい。?     
目論みがはずれて、ちょつとさみしかったが、
今度こそは!