立ち喰いそば
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駒込駅で立ち喰いそばを食べた。
別に腹がへっていたわけではなかったが、駒込駅を出て左へ曲がるとそばつゆの匂い…。猫にかつおぶし、ロシア人にウオッカ、中毒患者に麻薬、もうイケナイ、イケナイ、と思いつつ身体が反応してしまう。母ちゃん、許して。 店には、店員が二人。
一人は、ばあさん。この人は、きっと62歳。
町屋からバス通勤しているにちがいない。
福島県出身だな、たぶん。家には70歳になる夫がいる。彼は、胃と肝臓を悪くしており、しかも働くのはあまり好きではない。62歳は苦労してきた。口やかましいので夫は家に寄り付かない。
「世の中は金よ…」。
これが62歳の口癖だ。
もう一人は、エッチャンだな、たぶん。歳は24〜30歳。山梨県出身。町工場でくつの組み立て加工をしていた。
22歳のときに王子のスナックで知り合った28歳の男と結婚。
2人の子どもがいる。
エッチャンは私が差し出したグショグショの券を受け取りながら、「そんなに力を入れなくても…」とでも言いたそうな表情である。62歳もエッチャンも口数は少なく「この店はいけるかも…」と思わせるいい雰囲気である。
以前は天ぷらそばが好きだった。
あの使い古した油で揚げた小麦粉ばかりの天ぷらのギトギトがなんともヨカッタ。
でも、モーゴメンナサイ、ユルシテ。身体がもたない、全面
降伏。それから、キツネそばにしたが、このキツネとは1年で別れた。「おまえの甘ったるさがどうにもがまんできん」てなわけで。いまは、カケそばのお世話になっている。カケそばの「しつこくないし、甘ったれでもない」ところが私と合うと思っている。

カケそばを最初注文するときは勇気がいった。金がないと思われたくなかったからだ。いまは、少し明るく注文。
「金はあるけど、カケそばが好きなんだよね」
てな感じを出している。
出てきたそばは、濃い汁の中に浮かんでいる。
しかし、しかし、ネギが、ネギが少ない………!
そう、ネギなのだ。私はネギが多いほどうれしい。叶うなら麺が見えぬ
ほど入れてほしいとも思っている。このカケそばには6つのネギしか入っていない。私は淋しくなり、エッチャンに
「ネギ、もっと入れて」
と合図する。エッチャンは、右手でネギを一つかみ、気軽に入れてくれる。私はうれしくなり、エッチャンが他人ではないように思えてくる。七味をかけて一口、濃い汁とのびたそばにネギがシャキシャキと実に気持ちがいい。
二口めを味わっていると、エッチャンが62歳に小声で叱られている。私のネギのことにちがいない。
「エッチャンは悪くないぞ」
私は62歳にガンをつけてやった。
エッチャンは皿を洗いながら、「ペロッ」と舌を出した。胸には安物のハートのペンダントが光っていた。君はいい娘だ。きっと24歳だろう。
今夜もダンナと二人でスナックに行くのかい?


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