箱男たち
●
その店は箱だった。
幅1.5m、奥行き3m くらいのただ長いだけの空間。
道路に面した左側には小さな窓が2ツ。窓の下に幅25cmくらいのカウンターがダァーと奥まで1本。そして、窓とは反対側の壁際にもまた、同じカウンターがダァーと奥まで1本。
そして、丁寧にも丸イスが合計8脚、こんなせますぎる場所に8脚だぜ。立って飲んだ方がよっぽど楽じゃねえか!

しかし、飲んでいる人たちは律義に正面を向いたり、斜めに座ったり、真面 目な顔をして飲んでいる。客は年配のひとり客が多かったな。
入り口で作り置きのツマミの小鉢をとり酒を注文し、場所を確保する。ツマミは1品200〜400円の日替わりで5、6種類しか置いてなかったがそれで充分だった。だいたい1人2品くらいで終わっていた。
ポスターもメニューも(メニューは入り口の黒板)本当に何もないガラーンとした、酒場とは思えない店。
25cmのカウンターで目の前の(目前30cm)の壁のシミを見ながら飲む客。
初めてこの風景を見たときには思わずふいてしまったぜ。何もこんなところで飲むことはねえだろうに。
しかし、落ち着いて見ると静かで(もちろん音楽もなし)、ゆっくりと酒を口にはこぶ客のおだやかな顔。
ただの四角い箱…
こんな店もいいな。
だけど、もうないんだ、この店。


|