阿佐谷の灯…1

この店はスゴイ。
なにがスゴイかと言うと何時に行っても飲めるのだ。

私がこの店に行ったのはマンガ家の福谷たかし(『どくだみ荘』)につれて行かれたのが最初だったと思う。それは、晩秋の明け方4時頃のこと。

店は真っ暗で営業中とは思えなかったが、福谷は

「イイカラ、イイカラ」

と言い、

「オバチャン、オバチャン」

と声をかけ、引き戸を開けた。カギはかかっていなかった。

「オバチャン」

声をかけながら暗い店内に入った。奥の小部屋に、スタンドの薄あかりが灯っているものの人の気配がしない。

「うっ」

という声とともにタタミが動いて中から鬼ババが出てきた。びっくりした私は思わずドアに手をかけたほどだった。しかし、タタミだと思ったのはダンボールの束だった。(そのことにもビックリ!)鬼ババはダンボールを掛けて寝ていたのだ。鬼ババ(失礼しました)に見えたのは70才すぎのやせたオババだった。

「あら、タカちゃん」

オババがだるそうに起きてきて電気をつけてくれた。便所の裸電球ほどの明るさだった。

店の薄暗い灯りにはすぐ馴れた。

店内を見回すとまたまたビックリ(よくビックリするヤツだ)。カウンターには飲み残しのコップ、ビール瓶がビッチリと並んでいる。まるで地獄の針の山のように。たぶん1〜2週間ぐらい前の飲み残しであろう。そのカウンターにはホコリがうっすらと積もっていた。福谷はコップや瓶をカウンターの横にどけ2人分の場所を作ってくれた。この店では自分の場所は自分で作るらしい。私はあまりのスゴサにボーッと立ちつくしていた。

福谷はカウンターの外にある冷蔵庫から勝手にビールを出して飲む。私も一息ついて店内を見る。コップやビール瓶だらけのカウンター脇の通 路には新聞紙の束が背の高さほどに積んである。これでは客は便所にも行けない。(当然、便所は外で立ちションということになる)。

ビールを飲みながら福谷が説明してくれた。

以前はきれいでハヤッテいた店だったけど、バアさん一人なのを知ってどうしようもない客が来て、金は払わないわ、暴れるわ、脅されるわで恐ろしくなり、イヤでイヤで、だんだんとこんな店にしていったそうだ。

ダンボールの布団についても「布団に寝ると眠りすぎるから」とオババは少しハズカシそうに答えた。

私はそんなオババをカワイイと思った。

私たちはサバのミソ煮缶(ツマミは缶詰各種)とビールを3本ほど飲み店を出た。その店は私の好きな店の一軒になった。

以前、店にドロボーが入り、新聞紙の山を乗り越えようとして、山がくずれ逃げて行ったそうだ。

さぞかしドロボーもびっくりしたろうな。