ビロードの向こう側
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その店は阿佐ヶ谷のはずれにあった。
その日も遅くまで酒を飲み、
フラフラと家に帰る途中いつものように腹がへり、
何か食わなくちゃ、
何か食わなくちゃ
と追われるように食堂を探していた。
いつも行く朝陽は休みだったので、しかたなく
「家でラーメンでも食べるか…」
と思っていたその時に、
私の前をチョットイイ女が横切って行った。
その女のゆれる
尻のあたりに「P」
というカンバンがあった。
店構えからして「マズソ〜」。
どこにでもあるスナック風。
居ぬき、改装なし。
とにかく開店して金をかせぐからね風な感じ。
躊躇した。 しかし、
「何か食わなくちゃ」
に追われる私はドアを開けた。
店内はうす暗く、4つある小テーブルには客が来た気配もない。
「失敗した。帰ろう」
と思ったそのときに
「イラッシャ〜イ」
の声とともに、2階から
太った女がドスドス、
下りてきた。
その女の服装は食堂風でもなくスナック風でもなかった。
ま、しかたない…。
「とりあえず、ビール」
と私は注文。メニューに「サンマ定食」の文字を発見。
「サンマ定食ください」。
女は
「サンマ〜」
と声をあげた。
ビールを飲みながら、店内を見回すと、隅にカウンター。
中の調理場を包みこむように天井から緋色のビロードが張り巡らされている。これでは調理場が見えない。ビロードの中の人は息苦しくはないのか、油が飛んで危なくはないのか、と心配になるくらいキッチリとその緋色のビロードは重く苦しく張り巡らされていた。
しばらくすると…。
ビロードのカーテンが少し開き、「サンマの開き定食」がカウンターに出され、そしてすぐ、
まるで中を見られたくないかのように、そのカーテンは閉じられた。
なぜ、このカーテンは閉じられているんだろう?調理場が油でギトギトか?ん、わかる、わかる。
不法滞在者を使っている? 中国マフィアのかくれみの?
それもありだな。
有名な映画スターのアルバイト?
それも大いにありありだ。
ん〜、アヤシイ。
出された「サンマ開き定食」はなんとも
しょっぱいだけ
だった。
私の酔眼には「アヤシイ、アヤシイ」と映った。
再調査の必要あり、私はつぶやいて外に出た。
「なんか、アヤシイんだよね」。