写真植字を始める
写研とモリサワ

石井文字

一寸の巾

活版から受け継いだもの
製版カメラ


自動化へ

マイコン

デジタルになってみれば


弘法筆を選ばず、といいますが、名人道具を選ぶとも言いますね。
時空を超越した境地に居られるのならいざ知らず、時間というものがままならぬ現代人にとっては道具の良し悪しが効率を左右してしまうのが現実でしょう。

写植の道具はもちろん写植機ですが、SK-3RYの印字レバーはよくできていて、縦組みと横組みをつまみの向きで切り替えるようになっていました。握っているだけで今縦組み中か横組み中か解るような構造でした。
後で出たSPICAPAVOは、なぜかこの設計思想をを受け継いでくれず、オペレータの神経をつまらないところに使わせる構造になっていました。飾り罫で枠を打つときなど絶対SK-3RYの方が楽でした。道具というものはこういった所が良くできているかどうかで使い勝手が全然違うものです。
また、SK-3RYで印字位置を大きく変えるときは、手の力の入れ加減で加速度を調整していました。それがPAVOでは加速度を無視した電動になってしまいました。そのうえ、手動機とは言ってもすべてがプログラムにより制御されていたため、初心者にも覚え易くなった反面、以前にはできた隠れ技もままならず、古くから写植に慣れた者には非常に使いにくい機械でした。 版下の方はと言うと、筆頭はやはり烏口です。
製版に耐える細い罫を引くためにはロットリングは使えません。後に自動作図機のプロッターを使うようになって初めてロットリングを使いましたが、どんなに調整しても充分な濃度が得られなかったので、ロットリングが同じ線の上を往復するように作図していました。
烏口は大きく分けて英国式とドイツ式があるのは御存知だと思います。太い罫ならハガネさえ良ければどちらのタイプでも支障はないのですが、極細の罫ともなると、ときどき先を開いて拭いてやる必要があります。その時、英国式のようにネジを取って開くタイプでは口の接し具合を元どおりの微妙な間隔に戻すのに手間がかかります。烏口が詰まると指にこすり付けてインクを出そうとしているのをよく見かけますね。でも本当に細い罫を引くためには油気は禁物なのですよ。油気は版下にも良くありません。墨の乗りが悪くなるばかりでなく散り易くなり、差し替えのフィルムでは貼り込みの糊も剥がれ易くなります。
そんなわけで版下の作業中は幾度も手を洗うのが習慣になっていました。 もう一つは定規ですが、T定規やドラフターは精度の良い版下には向かなかったので、1メートルあまりの定規の両端にワイヤーが付いて完璧に平行にしか動かない製図台を使っていました。ただ、これは横方向だけなので、長い平行線を引くには効率が良くても、直角に交わる縦線には不向きでした。そのためには特大の三角定規が必要になります。ところが直角精度の良い大きな三角定規はなかなか無く、手に入れるために製図用具専門店に無理を言って店頭で在庫の定規をすべて試させてもらいました。それじゃああんまり悪いのでショウウィンドウにあった一番高い国産の烏口も買って帰ったのですが、これが何とナマクラで使えた代物ではありませんでした。
   
 
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