饂飩店店頭帰還的釦

 

 

お詫びひたすら

 

 

口上:

寛容なる「おでこメガネ」こと,石原雅彦様。

貴兄が日記(2001年1月○日付)に書いたものだから,
「あの詫び状,はまボーズさんでしょ。どんな悪いことをしたの?」
と,ひそひそ声で問い合わせがあったり,
「詫びながら自慢してるなんて,どんな性格してるの?」
という,身に覚えのない誤解が流布されそうで,そっちのほうが怖い。
で,いっそのこと原文をコラムに掲載してしまおうと思う。
え〜い,くそ! 恥の上塗りじゃ。


日記原文引用:

2001/1/11(金)
某の詫び状

新春の仕事始めだそうで、編集の某氏から詫び状が届いた。

詫び状といっても原子レベルの実体が無い物なので、読む方も気楽だが、書く方も気楽と見えて実に珍妙な詫び状になっている。内容は敢えて日記などで人様に披露するようなものではなく、ごく瑣末な個人的珍事にすぎないのだが、その文章がひどく可笑しいだ。

俳優の竹中直人は「笑いながら激怒」した人間を演ずるという珍芸を持っていて、見た人によると傑作らしい。で、この詫び状というのが、ひたすら詫びている姿勢は一貫しているように見えるのだが、その裏側で、おのれの失敗を面白がり、珍体験に興奮して、はては「生」が活性化している自分を自慢しているように思わせる二重螺旋構造になっているのだ。

これを竹中直人に演じさせるのは難しい。「笑いながら詫びる」では、政治家やスチャラカ営業マンと同じだしなぁ。こんな難しい芸の演出は、演出家だったら引き受けたくないものだ。

某氏の文才には一目置いていたのだが、こういうのを書かせたら天才的だと思う。おそらく性格自体が二重螺旋化しているのだろう。


お詫びひたすら

石原雅彦 様 20001・1・9

明けましておめでとうございます。今日から仕事始めです。

実は,昨年末,とんでもない失態をして,貴兄に謝らなければ……と,気になっていて, でも,あまりにも恥ずかしい,申し訳ない大チョンボなので,電話ではとても怖くて話せない,メールなら直に罵声・怒声・蔑声を聞かなくても済みそうなので,メールにしよう,と1日延ばしにしていた。

昨年12月28日,仕事納めに日に,貴兄からいただいた清水の珍味「イルカのたれ」と,富山名産「ホタルイカの沖漬け」,それに川上(はったいこ)京さんから託されたという銘酒「男山・特別純米」の入った紙袋を,社の地下のホールに置いていた。
このホールは夕方から仕事納めの会食場になり,冷蔵庫が使えないので,そのまま隅に置いたんだけど,それを持ち帰るのを忘れてしまって,年末年始の休暇で伊豆に行ってしまった。
1月4日に伊豆から帰京し,車が都内に入ってまもなく,すっかり忘れていたそのことを不意に思い出して,真っ青になった。
ゲッ,しまった! な,なんたることか……

すぐに車を止めて,社の警備に電話して,シャッターを開けてもらい,取りにいったんだが,すでに7日も過ぎて,しかも冷蔵庫に入れてなかったため,紙袋からはちょっと異臭 がした。
家に着いて,すぐに開けて調べると,わが偏愛する憑味の「イルカのたれ」は表面がぬるぬるし,白い破片状のもの(灰汁か,カビか?)がいくつも付着していて,臭いもある。 やっぱり食えんやろな……。
念のため,表面を削ぎ落としてあぶり焼きし,胡椒をふったり,酢をかけてみたりと,いろいろやってみたが,やっぱりあかん。
で,「ホタルイカの沖漬け」のほうは,これは瓶詰めやから大丈夫やろ,と瓶の蓋を回したとたん,ブシュウ・シュ〜!と異様な音となまぐさい臭いとともに,中身がせりあがって飛び出してきた。
ギヨエ〜! これもあかん。

というわけで,せっかくの貴兄のお心遣いが,まったくの無に帰してしまいました。 ああ,一生の不覚,なんとお詫びすればよいやら。
もう,バカ,アホタレ,恥かしい,残念,無念,悔しい,もったいなや……
煩悶,痛苦に七転八倒,恥の赤面に泡立つ思いで,ボーズ頭を振りたて振り立て,よがりまくること,しばし。
「後悔先に立たず」「覆水盆に帰らず」「坊主ボケりゃ,たれまで腐る」

ごめんなさい……。

なお,「男山 特別純米」のほうは酒なので無事でした。不幸中の幸い。

追伸: それにしても,休暇中一度も思い出すことがなかったほど,忘却の彼方に消えていたこの記憶が,東京に戻って来たとたんに卒然としてよみがえるとは,いかなる脳のメカニズムによるものか? 
アルコールや薬物依存などの特異な症状のひとつに,正常なときには思い出せない病的時の記憶が,依存状態になると突然よみがえるという「フラッシュバック」現象があるそうだけど,これもそういう現象の一種であろうか…? あるいは,日常と非日常との境には,こうした記憶の往来する夢魔の領野があるのだろうか…?などと,心もとなく愚考するばかり。

はまボーズ 拝

(つづく)

 

 

 

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